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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)247号 判決

一 請求の原因一ないし三、四1の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 請求の原因四2について

(一) 成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例のものにおいて、雄ねじの刻まれたピン5・6及びこれに対応する雌ねじの刻まれたナツト27・28がねじ係合により支持部材2の腕3・4にそれぞれ固定され、ナツト27・28がキヤリパ15の突出部25・26に穿設された穴29・30を滑動可能に貫通し、これによりナツト27・28の外面上をキヤリパ15の突出部25・26が滑動し案内されるものであることが認められる(別紙第二図参照)。

一方、成立に争いのない甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書及び図面の記載によれば、本願発明の一実施例である明細書添付図面の第一図(別紙第一図)ないし第五図に示されたものにおいて、雄ねじの刻まれたボルト42及びこれに対応する雌ねじの刻まれたピン50がねじ係合によりトルク支持部材の腕14の両端にそれぞれ固定され、ピン50がキヤリパ部材の円周方向伸長部34のラグ36に穿設された孔38を滑動可能に貫通し、これによりピン50の外面上をキヤリパ部材の円周方向伸長部34のラグ36が滑動し案内されるものであることが認められる。

右事実によると、第一引用例のナツト及びピンからなるねじ付締付組立体が支持部材の腕の両端に固定される構成は本願発明のピン及びボルトからなるねじ付締付組立体がトルク支持部材の腕の両端に固定される構成に相当し、第一引用例のナツトの外面をキヤリパ部材が滑動し案内される構成が本願発明のピンの外面をキヤリパ部材が滑動し案内される構成に相当すること、右両構成の機能においても格別差異がないことが明らかである。

したがつて、第一引用例におけるナツト及びピンが本願発明のピン及びボルトに相当するとした審決の認定に誤りはない。

(二) 原告は、第一引用例のナツト及びピンは両者一体となつてガイド・ピンとして機能するのに対し、本願発明のボルトにはガイド・ピンとしての機能はないと主張するが、本願発明のピン及びボルトからなるねじ付締付組立体がキヤリパ部材のガイド・ピンとして機能することは前叙のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

(三) また、原告は、右ねじ付締付組立体に横方向の力が加わるか否かの点をとらえて審決の認定を論難する。

しかし、前掲甲第五号証によれば、第一引用例のナツト及びピンからなるねじ付締付組立体がブレーキ作動時に横方向の力を受けるのは、摩擦パツド10・11がキヤリパ15と一体をなす裏打ち金属板12・13に固定され、裏打ち金属板の端に穿設されている孔14をピン5・6が貫通している構造となつているため、ブレーキ作動時にデイスクと接触して摩擦パツドが受ける回転力(制動力)を裏打ち金属板が受け、この回転力が裏打ち金属板を挿通しているピンに横方向の力として働くことによるものであることが認められる。そして、前認定のとおり、ピン5・6はナツト27・28とのねじ係合により支持部材2の腕3・4にそれぞれ固定されているから、ピンの受けた横方向の力はピンを介して支持部材に伝えられることが明らかである。

一方、前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲の「上記の両方の摩擦パツド(26・28)は上記トルクの支持部材(10)に直接係合して、該摩擦パツドから制動力を直接該トルク支持部材に伝達し、もつて上記案内構造に加わる制動力を軽減している」との記載から明らかなように、本願発明においては、摩擦パツドがトルク支持部材に直接係合する構成を採用しているため、ブレーキ作動時に摩擦パツドがデイスクと接触して受ける回転力(制動力)は、ピン及びボルトからなるねじ付締付組立体を介することなく、直接トルク支持部材に伝達される結果、キヤリパ部材の案内機能を有する右ねじ付締付組立体に制動力が加わらない、あるいはこれが軽減される構成となつていることが認められる。

右事実によれば、原告の主張するねじ付締付組立体に横方向の力が加わるか否かの点は、第一引用例のものにおいては摩擦パツドがピンを介して支持部材に間接的に係合されているのに対し、本願発明においては摩擦パツドが直接トルク支持部材に係合されていることの差異すなわち審決がその理由の要点3(二)において認定した相違点(2)に由来するものであつて、ねじ付締付組立体の構成に由来するものでないことが明らかである。したがつて、横方向の力を受けるか否かの点は、第一引用例におけるナツト及びピンからなるねじ付締付組立体の構成が本願発明におけるピン及びボルトからなるねじ付締付組立体の構成に相当するとした前示認定を左右するものではなく、原告の右主張は失当といわなければならない。

2 請求の原因四3、4について

(一) まず、本願発明における遊隙の意義について考察する。

前掲甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書の発明の詳細な説明の項の「ピンと孔との寸法および位置は、トルク支持部材上におけるキヤリパ部材の適切な滑動嵌合を達成するために厳密な製作公差が要求され、この要求条件は製作費を増大するだけでなく、ブレーキ作動時に例えばピンが制動力を受けると仮定した場合にピンに変歪が生ずる場合にはその後のキヤリパの運動に障害を与える。この問題を解決するために、例えばゴムプシユをピンとキヤリパ部材内のピン取付部との間に介在させる等の提案がなされたが、これらは通常製作費が増大し、製作上又は作動上の困難が生ずるものであつた。」(甲第二号証三欄一ないし一二行)、「本発明によればキヤリパ部材は例えば摩擦パツドを新しいものと交換するために単にクランクボルトを取外すだけでトルク支持部材から分離可能となされ、このとき少くとも片方のボルトが両部材のうちの一方部材に遊隙を有して嵌合しているからある程度の遊びがピンがクランプされる以前に設けられ、この遊びがあるので両部材は容易に組立可能であり、製造公差を厳格にする必要がない。」(同号証三欄二五ないし三二行、甲第三号証別紙二頁(2))「上述実施例において孔40の寸法がオーバサイズすなわちピンを自由嵌合的に遊隙をもつて収容する寸法となされているから、厳密な製作公差を孔38、40の位置と寸法とに、またボルト42の寸法に与える必要がなく、キヤリパ部材18をトルク支持部材10上に装架するときに自由度が組立時に与えられ、図示実施例においてキヤリパ部材を正確な装架位置に支持することは単にボルト42をピン50内で締付けてピンをトルク支持部材の腕14の端面にしつかりと当接するようにクランプするだけで与えることができる。」(甲第二号証四欄三八行ないし五欄四行)との記載によれば、両部材を容易に組立てることが可能な程度の、厳密な製造公差に比し自由度が大きいボルトと孔との間の遊びをいうものと解することができる。

そして、前示本願明細書添付図面第一ないし第五図に示された実施例において、仮にピンがブレーキ作動時横方向の力を受けるとすると、この力はトルク支持部材とピン及びナツトとの当接面におけるピン及びナツトのねじ係合の締付けによる摩擦力より大きいことが明らかであるから、右遊隙の存在によりトルク支持部材の孔中でボルト軸が横に移動することが避けられず、その結果、トルクの支持部材、ピン、キヤリパ部材の整列が乱され、キヤリパ部材がピンの外面上を滑動することが困難となり、デイスク・ブレーキの作動不良をもたらす原因となることが認められる。このことからして、本願発明において遊隙を設けることはピンが横方向の力を受けない構成を採用したことと不可分の関係にあるというべきである。そして、本願発明においてピンが横方向の力を受けないための具体的構成が摩擦パツドがトルク支持部材に直接係合することであることは前叙のとおりである。

そうとすると、前示当事者間に争いのない請求の原因四1に示された本願発明の特徴(一)すなわち「ピンがキヤリパ部材又はトルク支持部材のうちの一方の部材にボルトで取り付けられる構造において、該部材をボルトが貫通する孔とボルトとの間にボルトの横方向の移動を可能とする遊隙が存在し、その結果、ピンと該部材とは、ピンの一端と該部材の当接面及びボルトの頭部と該部材の当接面の摩擦力のみによつて、所定の相互位置に固定される。」ことは、同じく本願発明の特徴(二)の「摩擦パツドとトルク支持部材が直接係合する。」ことを前提としてはじめて採用できる構成であるということができる。

(二) 一方、第一引用例のものにおいて摩擦パツドがピンを介してトルクの支持部材に間接的に係合されていることは前示のとおりであるから、右に述べたところからして、摩擦パツドとトルク支持部材の直接係合を前提としてはじめて採用できる本願発明の右特徴(一)に示される遊隙の存在とピンの固定手段を第一引用例のものが具備しているということはできない。したがつて、原告が請求の原因四3、4(一)(二)において主張する点は一応首肯するに足る理由を有するというべきである。

(三) しかし、右(一)において考察したとおり、本願発明において遊隙を設けることは、摩擦パツドをトルク支持部材に直接係合する構成を採用することを前提とするところ、第二引用例には、審決がその理由の要点2で認定したとおり、摩擦パツドをトルク支持部材に直接係合する構成の円板ブレーキが記載されていることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例には、同引用例の「円板20によつてパツド45にうける回転トルクはトルク部材25、35の腕に伝達され、クランプハウジング50の横方向の自動的な斉列運動に影響は及ぼさない。同じ様に、ハウジング内におけるユニツト60による液圧力の作動は、かかる回転力には無関係であり、かつハウジングはまさつ物質の寿命がある限り案内ボルト55上におのずから自然に規制される。」(同号証三頁左欄二四ないし三〇行。別紙第三図参照)との記載からうかがわれるように、本願発明のキヤリパ部材に相当するクランプハウジングの滑動する案内ボルトにブレーキ作動時の回転力による横方向の力がかからず、クランプハウジングが案内ボルト上を円滑に滑動する作用効果が記載されていることが認められる。また、同じく第二引用例の「この発明装置の利益は摩擦物質のパツドが取替易い点にあり、それには単に一個のハウジング案内ボルトを外して別のボルト上でハウジングを円板から離して揺動させればよい。」(同号証一頁右欄下から一三ないし一〇行)との記載から明らかなように、第二引用例の円板ブレーキは、本願発明の「本発明によればキヤリパ部材は例えば摩擦パツドを新しいものに交換するために単にクランプボルトを取外すだけでトルク支持部材から分離可能となされ、」(甲第二号証三欄二五ないし二八行)と同じ効果を有するものであることが認められる。

右認定の事実によれば、本願発明において、摩擦パツドをトルク支持部材に直接係合する点は、公知の第二引用例の構成を採用したにすぎず、その摩擦パツドの取替えが容易という効果も第二引用例のものと変るところがないことが認められる。

そうとすると、成立に争いのない乙第一ないし第三号証の各一ないし三によれば、一般に一個の装置を組立てるとき個々の部材の製作誤差を吸収できるように各部材の軸挿通孔などを軸の径よりも多少大きめに形成しておくことは慣用の技術手段であると認められるから、第一引用例のものに第二引用例の前示構成を採用することにより、ピンに横方向の力が作用しないようにすることができるならば、支持部材のピン通し孔の径を大にして遊隙を設けること、すなわち、キヤリパ部材をトルク支持部材上に装架するときにこの組立てが容易にできる程度の自由度を与えることは、当業者であれば容易に想到できる程度のことと認められる。

原告は、機械設計においてボルトと通し孔の間にすきまを設けることが普通に見られる技術であつたとしても、そのような技術と第一引用例の構造を組み合わせることは不可能であると主張するが、第二引用例に示される前示公知の技術を前提に右の点を考察すれば、前叙のとおりそれは当業者にとつて容易に想到できるところであると認められるから、原告の右主張は採用できない。

(四) 以上に述べたとおり、本願発明は、第一、第二引用例の開示した技術と慣用の技術手段とを組合せたものにすぎず、これを組合せるにつき格別の困難性があることも本件証拠上認めることができないから、審決が本願発明は第一、第二引用例及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと判断したことは結局正当であつて、前示(二)の点は審決の結論を左右しないといわなければならない。

3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がないことに帰着し、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願の特許請求の範囲は左のとおりである。

回転可能なブレーキ円板、トルク支持部材、キヤリパ部材、および一対の摩擦パツドから成る型式の滑動キヤリパ型円板ブレーキであつて、上記キヤリパ部材が上記トルク支持部材に対して軸方向に滑動し得るように該トルク支持部材により案内され、それによつて、制動時に上記摩擦パツドを一個宛上記円板の両側面に締めつけるようになされた円板ブレーキにおいて、上記のキヤリパ部材をトルク支持部材に対し案内する構造が、2本の軸方向に取りつけたピンを備え、該ピンの外面は上記トルク支持部材とキヤリパ部材とのいずれか片方の部材の対応する孔中を滑動するように案内され、該ピンはねじ付締付組立体により上記両部材の他方の部材に固定されており、該ねじ付締付組立体は、上記ピン(50、70、136)の一端から形成された雌ねじと、それに対応する雄ねじを有するボルト(48、80、144)とを有し、該ボルトは上記他方の部材の孔(例えば40)を軸方向に貫通し、上記ねじを締付けた時、上記ピンの上記一端の当接面が上記他方の部材に当接して固定され、上記ボルトの少くとも片方は該ボルトが貫通する上記孔との間に遊隙を有し、上記の両方の摩擦パツド(26、28)は上記トルク支持部材(10)に直接係合して、該摩擦パツドから制動力を直接該トルク支持部材に伝達し、もつて上記案内構造に加わる制動力を軽減していることを特徴とする円板ブレーキ。(別紙第一図参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図

<省略>

別紙第二図

<省略>

別紙第三図

<省略>

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